2022年5月15日 11:16 PM
ノースリーではボールゾーンでも2割以上がストライクになる?
下の引用記事の中に,カウント3-0の誤審率について書かれた部分があります.
ボールでもストライク? 状況で変わるストライクゾーン
野球データアナリスト 岡田友輔
2020年11月27日 3:002ストライク後の「誤審率」は21%
それでも、誤審率が突出して高い状況がある。2ストライク後の判定だ。フルカウントからの際どい1球は三振と四球の分岐点だ。2ストライク後の誤審率は21.45%にも上るという。08年の36.68%からは改善しているが、5球に1球は間違った判定が下されているということになる。
近年は日本でも多くの球場が追跡システムを導入している。しかし残念ながら、球審の誤審率などは公表されていない。そこでデータ分析を手掛けるDELTAでは目視により、ルールブック上のストライクゾーンと球審の判定がどれだけ一致しているのかを調べてみた。テクノロジーを使った統計に比べると精度では劣るが、大まかな傾向を把握することはできる。そこで確認できたのは、現実のストライクゾーンの広さはカウントによって変わるということだ。
18年のデータを見てみよう。例えばカウント0-0では、ボールゾーンへの投球がボール判定された一致率は83.7%、ストライクゾーンへの投球がストライク判定されたのは72.7%だった。ところがカウント0-2になると、ストライクゾーンのボールがストライクとコールされる確率は僅か24.7%になってしまう。一方、3-0になるとストライクの一致率が83.5%になるだけでなく、ボールゾーンへの投球でも2割以上がストライクと判定されている。つまり「2ストライクではストライクでもボール、3ボールではボールでもストライク」。これはファンの皮膚感覚ともおおむね一致するのではないだろうか。
ここから推察されるのは、審判は極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理である。恐らく無意識のうちに、審判は打者が何かしらの打球を飛ばして決着をつけてほしいと願っているのだ。人間は自分の判定が他人の運命を決めることを、極力避けたいのだろう。
大リーグも含め、ストライクゾーンについてはほかにも様々な興味深い検証結果が報告されている。ルール上のストライクゾーンは長方形だが、実際の運用では高低が狭く、横に広い傾向があり、四隅も角張っておらず、全体的に丸い傾向になっている。また、特に米国では、煮詰まったカウントでホームチーム有利の判定が多いことが確認されている。これは審判の意図的なひいきというより、際どいボールに起きるホームチーム寄りの歓声やどよめきがジャッジに影響を与えるからと考えられている。地元ファンの熱狂に乗せられて、ホーム有利の判定をしてしまうのだ。バスケットボールやサッカーなどにおいて、この傾向は一段と顕著に出る。ただ、日本のプロ野球においては確認できない。日本の審判は公明正大なジャッジをしているといえるだろう。
引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66660850W0A121C2000000/
この記事によると,2ストライク後の誤審率が21.45%と突出して高くなるのは,「審判のもつ極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理」が働いているからだとしています.
また,引用文には「3-0になると,ボールゾーンへの投球でも2割以上がストライクと判定されている」,「3ボールではボールでもストライク」と書かれています.
| 3-0のカウントでの誤審率 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 年度 | ボールをストライクと判定した誤審率 % 打者に不利 a | ストライクをボールと判定した誤審率 % 打者に有利 b | 誤審率 % a+b | |
| NPB | 2018 | 20%以上 | 16.5 | 36.5%以上 |
| MLB | 2021 | 10.75 | 5.77 | 16.52 |
まず引用文を基にしたNPBの誤審率とベースボール・サバントから引用したMLBの誤審率がかけ離れているということがあります.
2021年のMLBのノースリーのカウントでは,ボールをストライクと判定した誤審率が10.75%,ストライクをボールと判定した誤審率が5.77%となっています.合わせると16.52%となり,これはカウント別誤審率の中で最低の誤審率になります.
もし,NPBとMLBのカウント別の誤審率の傾向がそれほど変わらないのであれば,MLBでボールをストライクと判定した誤審率は10.75%(カウント別誤審率の中で最低)と低いので,「審判のもつ極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理が働いている」という推察はあてはまりません.
むしろ,なぜMLBではノースリーのカウントでボールをストライクと判定した誤審率が最低の値なのかを考えるべきです.
ノースリーからフォアボールを出す確率は87.8%
下表はMLBの2021年のノースリーのカウントでの打席,打数,四球を調べたものです.
| ノースリーのカウントでストレートのフォアボールになる割合 MLB 2021 | ||||
|---|---|---|---|---|
| カウント | 打席 a | 打数 | 四球 b | 打席に占める四球の打席の割合 % b/a |
| 3-0 | 2942 | 346 | 2584 | 87.8 |
※打席(2942)から四球の打席(2584)を引くと358打席となり,さらに死球、犠打、犠飛、打撃妨害、走塁妨害の打席を除くと打数(346)になる.
MLBのノースリーのカウントでのデータを調べたところ,2942打席のうち2584打席が四球になっています.実に87.8%の割合です.つまり,ノースリーのカウントになる投手はストライクが入らない状態になっているため,87.8%の割合でストレートのフォアボールを出してしまうということです.
それだけコントロールできない投球になっていれば,フォアボールになる投球はきわどいボールではなく,明らかなボールになると考えられるので,誤審率は低くなることが推察されます.
ノースリーのカウントでは投手はきわどいボールを投げられなくなっているので引用文で「NPBでボールをストライクと判定した誤審率が20%以上ある」となっているのは,疑問符の付くところではあります.
「カウント別の誤審率はどのようになっているのか?」で,2ストライク前よりも2ストライク後に誤審率が高くなることを示しました.
2ストライク後に誤審率が高くなるということは,2ストライク前に打っておけば,その選手の誤審率が低くなるということです.
早打ちする打者なら2ストライクになる前に打つことが多くなるはずなので,誤審率は低くなるはずです.