2020年10月30日 10:54 AM
村上豊氏の経歴
「科学する野球」の著者略歴を引用します.
著者略歴
引用元:科学する野球
村上 豊
1918年5月15日生.
神戸三中(現長田高)―高知高校(旧制)― 京都大学法学部 (旧制) 卒業.
ノンプロ「オール神戸」で一塁手として活躍.戦時中,川崎重工業(株)勤務,戦後,三菱商事勤務,定年退職後,リョウマシステムズ(株)社長,金菱商事(株)会長,村上スポーツ企画を兼営し,身体運動学的見地と物理から割り出した野球技術理論で技術指導をしていた.1995年逝去.
本シリーズのほかに『ゴルフ切り返し打法』(ベースボールマガジン社発行)がある.
村上氏は「科学する野球」を執筆する以前からプロ野球選手に技術指導を行っていたようです.そのことがわかる箇所を引用します.
それは、一九七五年八月末のことだった.いまは亡き歌手・灰田勝彦さんと偶然にもゴルフをご一緒にプレーしたのであるが,ラウンドを終えてから,灰田さんにトンカチ(金槌)の加撃理論から,王さん(当時巨人軍選手)がいまなぜホームランを打てないかを説明したところ,その話をすぐにも王さんに聞かせてほしいといわれ,いいですよと返事はしたものの,灰田さんと王さんとの親密度をしらなかった私は,正直いって本当かなと思っていた.
ところが,三、四日経ってから,二日置きぐらいに灰田さんから,「王ちゃんから電話がかかってこなかったか」と私宛に電話がかかってくるので,これはどうも本物らしいと思っていたところ,九月十四日の午後,王さんから私宛に,「灰田さんから話を聞くようにということですので,日時,場所を決めてほしい」との電話が入った.その後を引き継ぐようにして灰田さんから,王ちゃんから電話がかかってこなかったかと電話が入ったので,王さんの意向を伝え,灰田さんに面接の日時,場所を決めてもらい,王さんにも連絡を取ってもらった.
その日は,九月十七日,午後一時,文部省前より北寄りの場所に停車した王さんの車の中,王,灰田,私の三者会談の場がもたれた.私は,トンカチの加撃原理から,当時,打撃不振に陥っている王さんの手と腕の使い方の間違いを指摘し,空手打法で打つことを奨めたところ,「なるほど,空手で打つとワキが自然に締まりますね」と我が意を得たりという顔つきが王さんにみられた.
それから一週間ほど経ってから,王さんのバットからホームランの快音が再び聞けるようになり,灰田さんは喜ばれ, 私も実のところホッとした.その後,灰田さんは,私に会うたびに「王ちゃんはあなたに感謝していますよ」と口癖のようにいわれるのだった.
引用元:科学する野球 ・投手篇,pp.1-2
「科学する野球」刊行後も,プロアマ問わず技術指導を行っていたようです.
「科学する野球」に対する反響
日本の野球界にいまもはびこっている常識のウソを,鋭く追及した『科学する野球』(投手篇,打撃篇,守備,走塁,練習篇)はベースボール・マンの心をゆさぶったようである.
「体の捻りで投げ,体の捻りで打つ歪み理論」,「空手打法」,「四つ足走法」,「野球はカカトから」など,読者に強烈なインパクトを与えたようである.
在来の野球技術書では求めることができなかったことを得られた喜びを伝えてくださった方もあれば,「私が今まで生徒に教えていたことは間違っていた.生徒に謝らなければならない」といわれた高校野球の監督もあれば,在来の野球技術書では求めることができなかったことを得られた喜びを伝えてくださった方もあれば,「私が今まで生徒に教えていたことは間違っていた.生徒に謝らなければならない」といわれた高校野球の監督もあれば,はるばる北海道,九州,四国,山陰から電話をいただいたり,またお手紙も数多くいただいたりした.このような反響の大きさから『科学する野球』が,ベースボール・マンにとっていかに待望の書であったかをうかがいしることができ,私はこの上もない喜びを感じたのである.
引用元:科学する野球 ・実践篇,p.1
村上氏の理論が当時,衝撃の理論として受け取られていたことがわかります.野球関係者に反響があったことは確かですが,プロ野球,ノンプロ,強豪校には歓迎されなかったように思います.
レベルの高い選手,チームは古い野球で実績を残しているので,新しく動作を変えてまでパフォーマンスを向上させることは考えなかったのかもしれません.
また、村上理論を取り入れようとした選手がいても,監督,コーチから止められるケースも多かったのではないかと推測されます.
日本の野球界に一石を投じた「科学する野球」
思えば,アメリカ野球に取り組んでから,もう五十年近くの年月を経ており,よくも根気よく続けたものだと,自分ながら驚いていますが,巷間に見られる野球の書物とは違って,物理を援用して,体のいろいろな部分をどう使わなければならないかを解明し,独特の野球技術理論を展開することができたことについて,この上ない喜びを感じている次第です.
考えてみると,日本の野球は,明治から大正,昭和へと野球技術が受け継がれ,日本独特の野球を形成していますが,そこでいわれている基本は,理論性に欠けているというよりも物理に反しています.
そこで,私は日本の野球は間違っていると日本の野球界に一石を投じたわけです.従来基本といわれてきたものは,本当の基本ではないと,日本の野球界に長く根づき,常識となっていた基本を否定しましたから,私の理論は衝撃の理論として受けとられたに違いありません.
しかし、今は衝撃の理論であっても,やがてはこれが野球の基本として常識となり,衝撃の理論でなくなる日がいずれは来るであろうことを願うものです.
世の中には,それでもなお物理に反したダウンスイングを信奉するかたがおられることでしょう.何しろ日本人は権威者に弱いという国民性がありますから,打撃の神様がいわれることは何でも有難く拝聴される方がいても不思議ではないと思います.このほか,日本野球界の大御所の誰それさんはこういっているといって,それを盲信される方もいると思います.
しかし,理屈の通らないものは,いずれは消えてしまうはずです.物理のふるいにかけられ,誰もが納得のできる普遍性のある理論こそが生き残っていくはずです.
”野球はカカトから”
”空手打法”
”四つ足走法”
の理論が,野球をする方,野球を教える方,野球を観る方の心を捉え,本書がこれらの人たちにとって,いつまでも必読の書であることを願って止みません.
引用元:科学する野球 ・守備,走塁,練習篇,pp.173-174
引用文から村上氏が日本野球の技術向上を切に願っていたことがわかります.残念ながら,氏が心血を注いで作り上げた野球理論は,日本の野球界に受け入れられたとはいえません.
今の若い人たちは「科学する野球」という書物があったことすら知らない人も多いかと思います. 誰かが発信していかなければ,巷間に見られる野球の書物とは一線を画す氏の貴重な野球理論が風化してしまいます.
本サイトでは,「科学する野球」の村上豊氏の理論に基づいた動作の分析を行っています.村上理論には投球動作,打撃動作を理解するうえで重要な情報,ヒントが詰まっており,氏の功績は後世に伝えるべき価値があります.
当時は「スポーツ科学」が浸透していない時代であったため,村上理論に修正が加えられてもおかしくありません.僭越ながら必要に応じて修正を加え、新たな理論を提唱します.