2020年10月30日 10:54 AM
「科学する野球」は古い野球を否定する内容となっていいたため,反発を買うことも多かったようです.
村上さんのいわれた理論は正しい.しかし実際と理論とは違う
ある時,私は某大学野球部のために,「身体運動学と物理から割り出した野球の基本」 について講演したのですが,私の話を聞いた監督と選手たちは,自分たちがいかに間違った動作で日頃プレーしているかということがわかったようでした.特に選手たちの顔にはこれで野球が上手になれるという自信が満ちあふれているようでした.
ところがどうでしょう.私が帰った後,監督は選手たちにどういったと思います.
「村上さんのいわれた理論は正しい.しかし実際と理論とは違う.だから村上さんのいわれた通りにプレーしないで,自分がいままで教えてきた通りにプレーしてほしい」といわれたことを,そのチームのキャプテンが私に伝えてくれました.そして,このチームは気の毒なことにいまもって相変わらず弱いのです.この監督は,私の理論にはなるほどと思われたのでしょうけれども.自分がいままで教えてきたことは間違っていたとは選手たちにいえなかったのでしょう.自分の経験に基づく古い野球を選手たちに相変わらず押しつけているのです.
引用元:科学する野球・守備,走塁,練習篇,p.9
こうした日本の野球界の土壌には,合理的な野球技術を追求しようとする機運はなかなか芽生えそうにもありません.あるとき,某高校の選手から,『科学する野球』の投手篇・打撃篇・守備,走塁,練習篇の全三冊を読んで,その通りにやっていたら,この本を読んでいない監督から,それはいけないと注意され,困っていると報告を受けたが,このように選手の指導に当たって,その動作が合理的であるかどうかどうかを考えようともしないで,旧式の日本式野球の規準からしか判断できないというのが現状なのです.
科学する野球・実践篇
引用文からもわかるように,日本の野球界はたとえ理論が正しくても新しいものは受け入れません.
『韓国,台湾に大敗したU-18日本代表-パワー不足の原因は「日本の野球界の体質」』で述べたように,日本の野球界の指導者層は,従来の日本式野球に反するものは,すべて頭から間違っている野球と決め込んでしまう傾向があります.
川上さんのダウンスイングを否定する人の話は聞きたくない
私は「ダウンスイング」はバッティングではないといっています.その理由は打撃理論(打撃篇)で詳しく述べてありますが,打撃の神様といわれた川上哲治氏が教えられている 「ダウンスイング」 を否定したものですから,その反響は非常に大きいようです.
川上哲治氏を神様と崇めている方は,川上さんのいわれることには何の疑いも抱かず,そのお説は絶対正しいと盲信されているから,何といっても私のいうことに耳をかそうとはされません.
こういう例があります.私の野球技術理論を支持していただいている神田順治先生(元東大野球部監督)が,同先生の愛弟子である某高校野球部監督先生に私の理論を聞くように奨められたところ,川上さんのダウンスイングを否定するような人の話なら何も聞きたくないと,ニベもなく断られたと神田先生はガックリされて,まったく思いもよらぬことだと私に話されたことがありました.もっとひどい方になると,私はダウンスイングのみを物理からみて間違いだといっているのに,その批判によって神格化された川上さん個人の過去の栄光までもがけなされているように受け取っているようです.こういうように感情にとらわれては,物事を客観的に分析して,理論的に正しい野球技術を求めようとしても無理だと思います.
引用元:科学する野球 ・投手篇,pp.10-11
打撃の神様といわれた川上哲治氏や現役時代に一流の成績を残した選手は神格化され,その選手のいうことは何でも正しいかのように受け取られがちです.
しかし、すばらしい成績を残した選手が自らの動作を論理的に把握して発言しているわけではないので,そのまま鵜呑みにすることは危険です.
私が本書を執筆するに先立って,王さんのことだけは悪くいわないでくださいと注文された方がいますが,これは王さんの技術的欠点を指摘されると,王さんに対して抱いていたイメージが壊されるように思われるからでしょう.
そういう方のイメージを壊すことは申し訳ないこととは思いますが,王さんでもスランプに陥ったのはどこに原因があったのか,ということを本書で述べることは,読者の皆さんの野球技術向上のために大いに役立つことと思いますので,敢えて王さんの悪いときの打撃フォームに言及することにしました.
引用元:科学する野球 ・打撃篇
ノンプロ・チームのコーチからのクレーム
『科学する野球』の実践篇では,打撃におけるヘッピリ腰の構えと,低重心投法を日本の野球界から追放しなければならないと強調したのであるが,懸念していた通りの反応が現れたのである.
それは,某ノンプロ・チームのあるコーチから,ベースボール・マガジン社あてに寄こされたのであるが,その内容は,低重心投法が正しいのに,それを否定するような本は悪書であり, ベースボール・マガジン社ともあろう出版社が,このような悪書を出版し,日本の野球界に毒を流すとは怪しからんというお叱りであったのである.このコーチのように,日本式野球に凝り固まっている方は,既成概念からしか判断できないとみえて,低重心投法と捻り投法とはどちらが合理的であるかを考えようともされないで,従来の日本式野球に反するものは,すべて頭から間違っている野球と決め込んでしまうようである.そのような偏狭な心で,『科学する野球』を読んでいただいたのでは,そこに何が説かれているかを理解されることはできないと思うのである.従って,このコーチは,捻り投法の合理性が理解されない限り,ご自分の暴言には気付かれることはないであろうと思われるのである.
引用元:科学する野球・実技篇pp.2-3
村上氏はメジャーリーガーのプレーから動作の合理性を追求していました.そのため,日本式動作は非合理的,メジャーリーガーの動作は合理的という位置づけとなります.
低重心投法とはプレートを勢いよく蹴って大きくステップし,腰を沈めて投げる日本式の投法のことで,捻り投法とは後ろ脚を軸として体を捻り,軸を前脚に移し捻り戻して投げるメジャー式の投法のことをいいます.
どちらの投法を選ぶのかは選手の自由ですが,合理性を理解しようともせず従来の日本式野球に反するものは,すべて頭から間違っていると決め込むのが日本の野球界の体質といえます.