「村上宗隆選手の打撃理論②-56本塁打の矛盾」では,村上選手の打撃理論が「作られた左打者」のそれであるにもかかわらず,実際は左投げ左打ちの打者の打撃動作を行っていることに言及しました.
村上選手が頭に描いている打撃動作と実際の打撃動作が異なっている点について,なぜこのような矛盾が起るのかを説明します.
本塁打の打球方向
村上選手が三冠王を達成した2022年の本塁打の分布を調べると,広角に打っていることがわかります.
引っ張り方向の本塁打の割合はNPB平均の70.3%に比べて36.7%と小さく,センター方向,逆方向への本塁打の割合が大きくなっています.

引用元:https://www.nitoh.co.jp/blog/nitoh%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%80%80%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%81%AE%E4%B8%89%E5%86%A0%E7%8E%8B/

引用元:https://www.sanspo.com/article/20220903-NY3JBE54SZLNXFM2GQNGW6C4GE/?outputType=theme_swallows
逆方向への本塁打の割合が,2019年は33.3%,2020年は35.7%と3割を超えています.逆方向に本塁打を打てることが村上選手の強みになっています.
中学校の監督に引っ張るなと言われた
村上選手のバッティングの極意の動画の中で,左方向に打つきっかけとなった出来事が述べられています.
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=FGkP5fZse_k&ab_channel=%E4%B8%8A%E7%94%B0%E5%89%9B%E5%8F%B2
村上選手は中学3年生のときに,打撃練習でライトの奥の民家によくボールを当てて屋根を壊していたため,中学校の監督に「引っ張るな,レフトに打て」とずっといわれていたとのことです.
それから,レフトに飛ばすにはどうすればよいかを考え,最初はポイントを近くして三塁側にファウルを打っていたのが,逆方向に飛ばせるようになり,飛ばし方を覚えたといっています.
中学の最後の大会では,大きな藤崎台球場でワンバウンドでレフトのフェンスを直撃するツーベースを打てるようになっています.
ライトの奥の民家にボールを当てていたということは,右方向に飛ばせていたということです. 「作られた左打者」の打ち方では,右方向にそこまでボールを飛ばすことはできないので,村上選手は当時から左投げ左打ちの打撃動作を行っていたと考えられます.
左方向に飛ばすために肩を回さずに打つ
左打者が左方向に強打するには,左投げ左打ち,右投げ左打ちに関係なく,両肩を結ぶ線とバットは弾道と90°で交わらせなければならないため,肩を回さずに打つことになります.
村上選手は左方向に飛ばすために,肩を回さずにインパクトして打ち返す方向にバットを押し込むことを考えたはずです.


引用元:科学する野球・ドリル篇,p160,図①
引っ張るとレフトに飛ばないので,引っ張り防止として「投手に胸を見せず左肩を残し,顔を捕手側に残して打つ」という打撃理論に至ったと考えられます.
村上選手は左方向に打つ場合でも,大谷選手のようなゴルフスイングになっていません.おそらく,「作られた左打者」と同じくらい肩を回さない意識をもつことで,ちょうどレフトに強い打球を打てる感覚になっています.
村上選手は中学3年生のときに監督から引っ張らずにレフトに打つようにいわれたことで,逆方向へ飛ばす打撃を身につけ,そのときに「作られた左打者」の肩を回さないで打つイメージができあがっています.
動画で確認すると,村上選手は左投げ左打ちの打者と同じように後ろ腕でボールを押し込んでいるので,「作られた左打者」の打ち方ではありません.
「作られた左打者」のイメージをもつことで,広角に本塁打を打てるようになり,56本塁打達成につながったと考えられます.
村上選手がこのまま独自の打撃理論を崩さずに打ち続ければ,今後も三冠王を複数回獲ることができると考えられます.