バッティングとゴルフの違い
「科学する野球」から「第六章 バッティングとゴルフの違い」の冒頭部分を引用します.
いまは世をあげてのゴルフブームですが,プロ野球も例外ではなく,監督,コーチ,選手のほとんどがゴルフをプレーし,ゴルフも野球も同じだとかいって,バッティングにゴルフ理論を採り入れて,訳のわからない打撃理論が横行しているようです.
もっとも,ゴルフ理論が野球に採り入れられたのは最近のことではなく,三十年も前に新田恭一氏が唱えられた「新田打法」はゴルフ理論を根拠にされたものでした.
この新田打法は,ゴルフもバッティングもレート・ヒッティングするのであるからといって,写真84を見てもらうとわかる通り,図145のゴルフと同じフォームで打つことを説いたのです.この肩を早く開かない打ち方は,いまの野球解説者や指導者がいっている動作とまったく同じなのです.
ですから,いまの野球解説者や指導者が説いているバッティングは,ゴルフであって「新田打法」と変わりありません.
しかし,野球とゴルフとでは,球の条件と球を飛ばす目的と道具の構造が違いますので,腰や肩の回し方,ヘッドアップ防止のための顔の向き,バットとクラブのタメ方などに違いがあるのは当然で,それをバッティングでゴルフと同じ動作をやらそうとするのは間違いなのです.
それで私は,いまから二十年余り前の昭和三十八年に,デーリー・ルック紙上で,「新田打法では飛ばぬ」というエッセイを発表し,球界に警告を与えたのですが,いままた同じような過ちを犯しているので,バッティングでゴルフと同じようなフォームで打ってはいけない理由をここに重ねて述べておきます.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.184,188
新田打法の優等生である小鶴誠選手は,1949年に打率.361で首位打者、1950年には51本塁打,161打点の二冠王で最優秀選手を獲得しており.161打点は日本プロ野球記録になっています.
参考記事: 『「科学する野球」野球とゴルフの違い-新田打法では飛ばぬ』
新田打法(ゴルフスイング)が否定される理由
先に新田打法(ゴルフスイング)で打ってはいけない理由を述べておきます.
新田打法(ゴルフスイング)で打ってはいけない理由
- ボールを強打するためには,後ろ腕でボールを押し込むことが必要.
- 後ろ腕でボールを強く押し込むためには,打球線(弾道)に対して肩とバットを90°に交わらせなければならない.
- 肩を回さなければ,2を実現できない.
以上の理由により,肩を回さない新田打法(ゴルフスイング)は否定されることになります.
肩を回さずに打つ新田打法
「科学する野球」から,バッティングでゴルフと同じようなフォームで打ってはいけない理由について引用します.
新田さんの㊁の両肩の位置と,ディマジオ選手の㋭の両肩の位置とを比べてみるとほぼ同じですが,新田さんのバットはすでにボールをミートした後のようです.ところが,ディマジオ選手はまだバットを後ろにタメています.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.188
写真(二)の肩の回り具合では,本来なら写真(ホ)のディマジオ選手のようにバットを後ろにタメておかねばならないのに,すでにインパクトしています.
肩が回っていないのにすでにインパクトしている新田打法は,打撃の本質から外れているというのが,村上豊氏が新田打法を否定する理由にとなっています.
ディマジオ選手の㋬を見てください.両肩は回ってきましたが,まだバットは後ろにタメられています.㋣でこんなに両肩は回ってもまだバットは後ろにタメられて,これからようやくボールをつかまえようとしています.これでこそレート・ヒッティングしたといえるのです.
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.188-189
新田打法では肩を回さずに打つため,バットのタメが不足します.バットのタメが不足するとスイングする距離が短くなるので,スイングを加速できません.
また,インパクトで後ろ腕でボールを押し込むときに,押し込む力を大きくするためには,肩を回して両肩を結ぶ線が打球線(弾道)と90°にしなければなりません.
ディマジオ選手は肩を回してバットのタメをつくり,顔の向きも投手の方に向いています.
野球とゴルフではボールを飛ばす条件が違う
「科学する野球」実践篇の図147を見ると,野球とゴルフの違いがわかります.
ゴルフのボールの位置でボールを強打しようとすれば,両肩を結ぶ線と打球線(弾道)を平行にする方がよいことがわかります.ですから,ゴルフでは肩を回さずに打つのが正解です.
野球ではボールは投手から投げられるので,中心衝突でボールを強打するためには,後ろ腕でボールを押し込む必要があります.
ボールを押し込む力を大きくするためには,(ホ)のように肩を回して両肩を結ぶ線と打球線(弾道)を平行にした方がよいことがわかります.つまり,野球では肩を回して打つのが正解です.
野球では肩を回して打たなければならないのに,肩を回さずに打つ選手がいるため,村上氏の「野球でゴルフをしてはいけない」という指摘が出てくることになります.
新田打法が完全否定されるのには理由があります.
バッティングとゴルフとでは,肩の開きがどう違うか,タメの時点,インパクトの時点,インパクト後の時点での肩の開き具合を図示(図147) しておきましたから両者の違いをよく認識してください.
ヘッドアップ防止のための顔の向きも,野球とゴルフとでは,インパクト時点の球の位置が違いますから,図147の(ロ)と(ホ)のように顔の向きが違うのです.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.190
結論として申し上げますと,
一,野球でゴルフをしてはダメです.
一,どうしてもゴルフをしたい方は,尾崎将司プロのように,野球界から早く足を洗ってプロゴルファーに転向することです.
ということにつきます.バッティングもゴルフもレート・ヒッティングすることにおいては,本質的には同じであっても,特に球の条件が違いますので,その打撃動作には両者に違いがあることを認識され,野球もゴルフも同じであるとか,ゴルフも野球も同じであるとかといった妄言は慎んで欲しいものです.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.194
MLB,NPBの一流打者で「新田打法」のようなゴルフ・スイングでバッティングを行う選手はまず見当たりません.
そもそも運動連鎖を利用するためには,質量の大きい体幹を動かして,質量の小さい上腕,前腕,手へと運動エネルギーを伝達することによってスイングスピードを加速させる必要がありますから,肩を回さないで(体幹を動かさないで)打つことは否定されて当然といえます.