上から見た中心衝突
中心衝突には上方から見た中心衝突と,側面から見た中心衝突があります.ミート・ポイントでバットが球道に90°で交わるのは,上方から見た中心衝突です
「科学する野球」では中心衝突が求められます.中心衝突では投球線(求道)と打球線(弾道)が一致するので,右打者の場合,近めの球は右中間方向、遠めの球は左中間方向に打ち返すことが正しいとされています.
というわけで,中心衝突を求めるために,ミート・ポイントでバットを球道に九〇度で交わらせなければならないのだから,真ん中に投げられた球は,図68のようにセンター方向に打ち返され,遠めの球は図70のように左中間方向(右打者)に近めの球は図71のように右中間方向(右打者)に打ち返されます.このように球道に逆らわないで打つのが打撃の本質なのです.
たとえば,図72のように,近めの球を引っ張ったり,巻きこんで打つと,図67の㋑の偏心衝突を起こしファールを打つことが多くなります.元巨人軍の千葉茂さんは近めの球を右中間方向に打つ名人で,この打ち方は千葉さん独特の特異な打ち方と思われていましたが,これが球道に逆らわない物理にかなった打ち方だったのです.
遠めの球に対して,図73のように肩を回さないで流し打ちするのは,ミート・ポイントで肩の線とバットが球道に九〇度で交わっていないから,図67の㋩の偏心衝突を起こし,ファールを打つことが多くなります.
また,逆に遠めの球でも引っ張ろうとする打者がいますが,遠めの球が左中間方向(右打者)に打ち返されるのは,引っ張って左中間方向にも持っていくのではなく,センター返しをするときの動作と同じ動作を行いますと,球道と九〇度で交わるバットの向きで左中間方向に打ち返されるのだから,ここを間違わないようにしてください.
引用元:科学する野球・打撃篇,pp.71-72,p.74
図67の(ロ)と図68が中心衝突,(イ)と(ハ)は偏心衝突を表します.
図70と図71はどちらも中心衝突で,図70は遠めの球を左中間方向に,図71は近めの球を右中間に打ち返しています.図72と図73は偏心衝突です.これらは上から見た中心衝突,偏心衝突です.
側面から見た中心衝突
中心衝突には上方から見た中心衝突と,側面から見た中心衝突があります.落ちてくる投球の軌道とスイングの軌道を一致させるのは,側面から見た中心衝突です.
テッド・ウイリアムズ選手のアップスイングは,側面から見た中心衝突になります.
テッド・ウイリアムズ著の『バッティングのサイエンス』でも,「バッティングは手首の返しによるスイングでプルヒッティングするのではなく,投球に対して九〇度に当てるプッシュ・スイングを行わなければならない」と説いています.
また,ダウンスイングについても,インパクトでトップ・ハンドがボールより上になる傾向があり,その結果は巻き込んで打つスイングになるので,望ましいものではないと述べています.
そして,彼がアップスイング(アッパースイングではない)を行ったのは,投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するから,これを打つには手首を返さないで,少しアップスイングにしたほうが,投球の軌道とバットの軌道が一致している区域が長くなるという考えからで,これはトンカチでクギを打った時,トンカチの頭に「残心」を保つことと一致しています.
王さんも振り出しからバットを水平にもどし,インパクト後はアップスイングで両腕を伸ばしきるまで,球の芯を打ち抜いていました.
このアップスイングをするには,前腰の捻りを先行させて,インサイド・アウトにスイングしなければなりません.それには,写真23のようにトップ・ハンドと後ろ腕を外捻し,後ろヒジの内側の凹みを空のほうに向けて,後ろヒジを後ろ脇腹にかい込こむことからスイングのスタートを起こすことです.
図74のダウンスイングのように,トップ・ハンドや後ろヒジを起こすと,アウトサイド・インのスイングになり,プッシュ・スイングができません.
テッド・ウイリアムズ氏が,最高の右打者の一人として推奨するハリー・ヘイルマン氏から“インサイド・アウトのスイングを身につけたので,インコースに来たボールをライト方面に打てるようになった”と聞かされたとのことですが,近めの球をライト方向に打ったのは千葉さんだけではなかったのです.
引用元:科学する野球・打撃篇,p.74,pp.76-77
アップスイングとアッパースイングとの違い
アップスイングは側面から見た中心衝突を,アッパースイング(ダウンスイングも)は側面から見た偏心衝突を表します.
なお,アッパースイングは,図75のように水面下に手を沈めて水をすくうように,グリップをクギの力線(球道)より下に沈めてから,クギ(球)に向かって振り上げますのですくい打ちをすることになります.
ですから,アッパースイングというのは,インパクト前のバットの振り方であり,インパクト後にアップに振るアップスイングとは違うことをはっきりと認識してください.
また,図76のように,同一の加撃面(ガラス)の中に,ボールとバットがあれば,グリップよりバットの先が下がっていても,これはアッパースイング,すくい打ちではありません.
以上の説明から,打撃の本質は中心衝突を求めることであり,中心衝突を求めるには,
引用元:科学する野球・打撃篇,p.77
一,仮想の加撃面に沿ってレベルに打つ.
一,バットとボール(球道)とは九〇度で衝突させる.
ことが必須条件であることを理解されたことと思います.
図75は点線(球道)がトンカチの軌道(スイング)と一致していないので,側面から見た偏心衝突を表します.図76では仮想の加撃面(ガラス)の中に球道が含まれています.つまり,球道とバットのスイングの軌道は一致するため,側面から見た中心衝突を表します.
村上氏の説明によると,中心衝突を求めるためにミート・ポイントでバットを球道に九〇度で交わらせると,右対右の場合,遠めの球は左中間方向に,真ん中の球はセンター方向に,近めの球はライト方向に打つことになるということです.
バットが球道に90°で交わるのであれば,中心衝突させるために手首を返さず90°の角度を保ったまま両腕を押し出して打つことが必要になります.
これがテッド・ウイリアムズ選手がいうところのプッシュ・スイングです.このプッシュ・スイング は上方から見たときの中心衝突になります.
しかし,側面から見ると投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するので,側面の球道に中心衝突させるためには約五度下向きの球道に合わせてアップスイングしなければならないことになります.
つまり,上からの中心衝突ではバットを球道に対して90°で交わらせてプッシュスイングし,側面からの中心衝突では下向きの球道に合わせてアップスイングしなければならないということです.
アップスイングは図76のように仮想の加撃面に沿って中心衝突させるので,図75のような偏心衝突を起こすアッパースイングとは異なります.