運動連鎖の考え方①-m(質量)を小さくしてV(速度)を大きくする

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運動エネルギーを大きな部位から小さな部位へ伝達する

 投球動作での腕の振りの加速,打撃動作でのスイングの加速には,運動連鎖が利用されます.運動連鎖では運動エネルギーを関節を介して末端の速度を増大させます.

 運動エネルギーは 1/2mv2 で表されるので,最初に運動エネルギーを質量(m)の大きな部位で発生させて,小さな部位へと運動エネルギーを伝達していけば,速度(v)の値を大きくすることができます

投手の運動連鎖

 投球打動作ではまず,ステップによる前方移動の運動エネルギーを発生させ,ステップ足が着地して前方移動にブレーキがかかり,減速,静止すると,前方移動の運動エネルギーが次の部位である体幹に伝達されます.

 体幹が回旋して肩が回り,捕手に正対するところで減速,静止すると,体幹の運動エネルギーは上腕に伝達されます.上腕が減速,静止すると,上腕の運動エネルギーは前腕に伝達されます.前腕が減速,静止すると,前腕の運動エネルギーは手に伝達されます.

 手の質量(m)は小さいので,最初に発生させた運動エネルギー1/2mv2が関節を介して伝達されるならば(実際には各部位は完全に静止するわけではないので,ロスなく伝わることはない),1/2mv2の v(速度)は末端で最大になります.

打者の運動連鎖

 打撃動作では,ステップによる前方移動の運動エネルギーを発生させ,ステップ足が着地して前方移動にブレーキがかかり,減速,静止すると,前方移動の運動エネルギーが次の部位である体幹に伝達されます.

 体幹(脇が締まるため上腕は体幹と一体になる )が回旋して肩が回り,打球線に対して両肩を結ぶ線とバットが平行になるところで減速,静止すると,体幹の運動エネルギーは前腕,バットに伝達されます.

 前腕とバットの質量(m)が小さくなるため,スイングスピード(v)を加速させることができます.

 運動連鎖の利用では,質量(m)の大きい部位から小さい部位にエネルギーを伝達することによって末端の速度(v)を最大にできます.

 単関節よりも多関節の運動のほうがより小さい部位にエネルギーを伝達することができます.大谷選手のように質量の大きい体幹を回さずにゴルフスイングで打つことは運動連鎖の利用に反しています.

ソフトボールの投手が利用する運動連鎖

上野由岐子投手  ソフトボールのブラッシング
前腕にブレーキをかけて運動エネルギーを小さな部位(手)に伝達し,スナップの速度(V)を最大にしている
引用元:http://www.nijiiro-sekkotsuin.com/2015/10/13/1528/

 ソフトボールで腕を大腿部に当てて投球するブラッシングという技術があります.これは,前腕を大腿部に当てて腕の振りにブレーキをかけることによって,運動エネルギーを手という小さい質量(m)の部位に伝達し,末端の速度(v)を増大させるというものです.

 ソフトボールは下手投げのため,野球のように肘を先行させて鞭のようにしならせることはできませんが,ブラッシングでブレーキをかけ運動連鎖を利用することで球速を速くしています.

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