「内側側副靱帯損傷のメカニズムを完全解明④-肩が固定されないと外反ストレスは作用しない」では,「肘の突き出し」を行っても肩が固定されなければ,内側側副靱帯は損傷しないこと述べました.
最大外旋位から肩を固定したまま肘を突き出す投手が内側側副靱帯を損傷するのであれば,トミー・ジョン手術を受ける投手がもっと多くてもよいはずです.
野茂英雄投手が内側側副靱帯を損傷しなかった理由
野茂投手はオーバースロー投法で,最大外旋位,リリースで両肩を結ぶ線が垂直に近くなります.
野茂投手が内側側副靱帯を損傷しなかった理由は次のとおりです.
- 「肘の突き出し」を行っていない
- 上腕が垂直に近い
野茂投手は「肘の突き出し」を行っていませんでしたが,仮に「肘の突き出し」を行っていたとすれば,内側側副靱帯を損傷していたでしょうか? 答えはNoです.
上腕が垂直であれば肘を突き出しても外反ストレスは作用しない
肘関節は蝶番関節のため,本来腕の曲げ伸ばししかできないようになっています.
「肘の突き出し」を横から見た場合,もし上腕が垂直であれば,肘を突き出すことによって前腕が後方に振られたとしても,単なる腕の曲げ伸ばしとなるため,外反ストレスは生じないことになります.
肘関節は蝶番関節で腕の曲げ伸ばししかできないようになっています.上腕が地面に垂直な状態で思いっきり「肘の突き出し」を行っても,後方に強く肘を曲げても,それは本来,肘関節に備わっている腕の曲げ伸ばしの範囲内の動作になるので,横方向の動き(外反,内反)は生じません.
横方向の動き(外反,内反)が生じなければ,外反ストレスも作用しないので,内側側副靱帯を損傷することはありません.
改めて野茂投手の画像を確認すると,最大外旋位からリリースにかけて上腕が地面に対して垂直に近くなっていることを確認できます.
これだけ上腕が立っていれば,仮に「肘の突き出し」を行ったとしても外反ストレスは大きくならないので,内側側副靱帯を損傷するリスクも小さく抑えられます.
つまり,野茂投手のように上腕が垂直に近いオーバースローで投げる投手は,内側側副靱帯を損傷する可能性は極めて小さいということがいえます.
フォークボールの多投が内側側副靱帯を損傷させるという説がありますが,肘を突き出して投げても,またフォークボールを多投しても,外反ストレスが作用しない投げ方をしていれば,トミー・ジョン手術に至ることはありません.
オーバースロー,スリークウォーター,サイドスローの順で外反ストレスが大きくなるのか?
最大外旋位の上腕の傾きを①,②,③で表し,「肘の突き出し」を行うときに外反ストレスがどのくらいかかるのかを考えます.
まず,肘を上げて上腕を地面に対して垂直な状態にします.これは①上腕が地面に対して垂直(オーバースロー)にあたります.ここから肘を後方に曲げると,これは単なる肘を曲げる動作になり,外反は作用しません.
次に②上腕が地面に対して45°(スリークウォーター)の状態で,肘を後方に曲げると外反が作用するので,内側側副靱帯に負荷がかかります.
次に③上腕が地面に対して0°(サイドスロー)の状態で,肘を後方に曲げると②よりも大きく外反が作用するので,内側側副靱帯に過度の負荷がかかります.
外反ストレステストの動画で,上腕を固定した状態で前腕を外反が作用するように動かしていましたが,上腕が外側に傾くほどこの外反ストレステストの形に近づいていることがわかるかと思います.
外反ストレステストでは肘の角度を20°~30°に設定していますが,これは20°~30°の角度で外反が最大になると考えられます.
上腕を固定したまま外反する外反ストレステストとは異なり,腕を振りながら外反が作用するという違いはありますが,上腕が外側に傾くほど肘の角度が小さくなり,リリースにかけて20°~30°の角度に近づくので,③のサイドスローが最も外反が大きくなると考えられます.
つまり,オーバースロー,スリークウォーター,サイドスローの順で外反ストレスが大きくなり,内側側副靱帯を損傷するリスクはオーバースローが最小,サイドスローが最大となります.
しかし,これは間違った見解です.
理由については,「内側側副靱帯損傷のメカニズムを完全解明⑥-外反ストレスが最大になるのはスリークウォーター」で解説します.