「内側側副靱帯損傷のメカニズムを完全解明①-内側側副靱帯損傷の原因は外反ストレス」では,外反ストレスが内側側副靱帯損傷を引き起こす原因となっていることを述べました.
肘関節がどのような状態のときに外反ストレスが作用するのかについて考えます.
内側側副靱帯は外反を防ぐ役割を担っている
肘関節は蝶番関節のため,本来腕の曲げ伸ばししかできないようになっています.横方向の動き(外反,内反)に対応できないため,外反ストレスがかかると,内側側副靭帯が外反を防ぎます.
外反ストレスがかかると,外反を防ぐために内側側副靱帯(前斜走靱帯,後斜走靱帯,横走靱帯)に負荷がかかります.AOLが最も損傷が多く,次にPOLが続きます.
腕を伸ばしたままでは外反ストレスはかからない
投球動作の中で,外反ストレスがかかる局面は加速期とされていますが,これだけでは不十分で,どのような腕の振りをしたときに外反ストレスがかかるのか,動作を特定する必要があります.
手の平を上に向けて腕を正面に伸ばしてみてください.この腕を伸ばした状態で親指側に肘を曲げることができるでしょうか? 曲げようとしても曲げることはできません.なぜなら,腕を伸ばした状態では外反できないからです.
つまり,肘が曲がった状態でないと外反ストレスはかからないということです.ですから,内側側副靱帯が損傷しているかをチェックする肘外反ストレステストを行う際には,肘を曲げた状態で外反します.
肘を曲げる角度については,「flex the elbow to approximately 30 degrees and then apply an abduction or valgus force」とあるので,肘を30°くらい曲げて外反ストレステストを行っています.
肘を曲げる角度については,「we’re gonna take our patient’s elbow from an extended position into about 20 to 30 degrees of flexion」とあるので,肘を20°~30°くらい曲げて外反ストレステストを行っています.
どちらの動画も肘を曲げる角度が20°~30°くらいになっているので,この角度が最も内側側副靱帯に負荷がかかる角度になると考えられます.
最大外旋位からリリースまでの間に外反ストレスが作用する
今までの内容をまとめると,次のようになります.
- 投球動作の加速期に,腕が前方に振り出される際に肘に強い外反ストレスが働き,この動作の繰り返しにより,内側側副靭帯が損傷する.
- 腕を伸ばしたままの状態では外反することができない.
- 肘が曲がった状態で外反すると,外反ストレスが働き,外反を防ぐ役割を担う内側側副靱帯に負荷がかかる.
加速期の中で内側側副靱帯が損傷するということは,加速期の最初の最大外旋位(捕手正対時)のときに肘が曲がった状態になり,ボールリリースまで腕を振るときに外反が行われることになります.
ただし,実際に腕を振るときに,外反ストレステストのように上腕を固定した状態で前腕を動かして外反するということはできませんから,腕を振るときに何らかの形で外反の力が作用することになります.
最大外旋位から腕を振っても外反の力がかからなければ,内側側副靱帯は損傷しません.トミー・ジョン手術に至る投手は,外反ストレスがかかるような腕の振りを行っているわけです.
内側側副靱帯損傷に至る原因について,多くのサイトでは,KOMPAS(慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト)の記載と同様に「加速期に腕が前方に振り出される際に肘に強い外反ストレス(肘を外側に広げようとする力)が働き,この動作の繰り返しにより,内側側副靭帯が損傷する」という説明がなされています.
しかし,この説明だと拡大解釈すれば,投手の大半が内側側副靱帯を損傷してもおかしくないことになってしまいます.ですから,外反ストレスがかかる腕の振りを特定する必要があります.