内側側副靱帯損傷のメカニズムを完全解明④-肩が固定されないと外反ストレスは作用しない

 内側側副靱帯損傷のメカニズムを完全解明③-「肘の突き出し」によって外反ストレスが作用するでは,加速期における「肘の突き出し」が外反ストレスを引き起こし,内側側副靱帯が損傷することを述べました.

 ただし,「肘の突き出し」を行っても,肩が固定されていないと外反ストレスは作用しません.なぜなら,肩を中心とする上腕(半径)の回転運動が成り立たなくなるからです.

 肩が固定されているかどうかは,次の2点をチェックします.

 投球動作の加速期(最大外旋位からボールリリース)において 

  • 上体を倒しているか
  • 体幹を回旋しているか(肩を回しているか)

 上体を倒さず,体幹を回旋しない投手は肩が固定するため,内側側副靱帯損傷のリスクは大きくなります.

 上体を倒す投手,体幹を回旋する投手は肩が移動するため,内側側副靱帯損傷のリスクは小さくなります.

目次

肩を固定して投げるダルビッシュ有投手

 ダルビッシュ投手は上体を倒さず,体幹を回旋しないため,肩は固定されます.

①最大外旋位 
②リリース

③フォロースルー

 ダルビッシュ投手は最大外旋位からリリースまで上体の角度がほぼ一定しているので,肩を固定して投げていることがわかる.

 藤浪晋太郎投手のような脊柱を軸とする体幹の回旋(肩を回す)もみられないため,肩の固定が強固なものになっている.

引用元:清川栄治・水野雄仁・香田勲男・小宮山悟・野村弘樹 解説(2013):連続写真で徹底解析 プロ野球究極のテクニック【投球編】,ベースボールマガジン社,p.53

 ダルビッシュ投手は,上体を倒さず,体幹も回旋していないため,肩を固定して投げる投手と判断されます.「肘の突き出し」を行うと,内側側副靱帯損傷のリスクが大きくなります.

肩を固定して投げる斎藤祐樹投手

 斎藤投手は上体を倒さず,体幹を回旋しないため,肩は固定されます.

①最大外旋位
②リリース

③フォロースルー
 斎藤祐樹投手は,最大外旋位からフォロースルーまで上体が起きているため,肩を固定して投げる投手の部類に入る.

 フォロースルーでは背番号が見えるくらい肩が回っているが,最大外旋位からリリースにかけて肩は回っていない

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=voMrC_qcQSs

 斎藤投手は,上体を倒さず,体幹も回旋していないため,肩を固定して投げる投手と判断されます.「肘の突き出し」を行うと,内側側副靱帯損傷のリスクが大きくなります.

 斎藤投手の最大外旋位とリリース時の画像を見て,肩が固定されていないと思われた方もいるかもしれません.

 しかし,最大外旋位から腕を振るときに,多少なりとも体幹が回旋(肩が回る)することは避けられない側面があるため,最大外旋位とリリース時で前傾にそこまでの差がなければ,肩を固定していると判断して差し支えないかと思います.

 フォロースルーで深い前傾がなく上体が起きていれば「肩を固定」フォロースルーで深い前傾が確認できれば「肩を移動」,と判断するのが適当です.

肩を移動して投げるグレッグ・マダックス投手

 マダックス投手は上体を倒して投げるため,肩が移動します.

①最大外旋位
②リリース

③フォロースルー
 マダックス投手は,フォロースルーでかなり前傾がみられるので,上体を倒して投げていることがわかる.肩は回っていない.

 上体を倒して投げる場合,肩が移動して肘を突き出すことが難しくなるので,内側側副靱帯を損傷するリスクは小さくなると考えられる.

引用元:高橋直樹 解説(2006):決定版 すぐに役立つメジャーリーガーのピッチング教室,ベースボールマガジン社,pp.10-11

 

 マダックス投手は,上体を倒して投げているため,肩を移動して投げる投手と判断されます.肩が移動すると「肘の突き出し」を行っても,肩を中心とする上腕(半径)の回転運動が成り立たないため,外反ストレスは作用しません.

 そもそも上体を倒す場合,肘を突き出して投げることは難しくなるので,内側側副靱帯を損傷するリスクは小さくなると考えられます.

 上体を倒して投げる投手は,肩が移動するので外反ストレスがかかりにくいことを述べましたが,体幹を回す(肩を回す)投手についても同じことがいえます.

肩を移動して投げる藤浪晋太郎投手

 藤浪投手は体幹を回旋して投げるため,肩が移動します.

①最大外旋位
②リリース

③フォロースルー

 藤浪投手は最大外旋位とリリース時で前傾にあまり差がないため,肩を固定して投げているように見える.

 しかし,フォロースルーで背番号が見えるほど肩が回っていることから,最大外旋位から脊柱を軸とする体幹の回旋で投げていることがわかる.

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Babv5B9sUs8

 正面からの画像のほうが,脊柱を軸として体幹を回旋して投げていることを確認しやすい.

①最大外旋位
②リリース

③フォロースルー

 藤浪投手は,マダックス投手のように上体を倒して肩を移動するのではなく,脊柱を軸とする体幹の回旋(肩を回す)により肩を移動している

 脊柱を軸とする回転となるため,最大外旋位からリリースにかけて上体はほぼ動かない.このため,肩を固定して投げていると誤って判断されやすい

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=0W-i6y7uPeY

 藤浪投手は脊柱を軸とする体幹の回旋で投げています.脊柱が固定した状態の方が回転運動がスムーズに行われるため,最大外旋位からリリースにかけて上体はほぼ動きません

 そのため,肩を固定して投げているようにみられがちですが,実際は体幹を回旋して肩を移動しているため「肘の突き出し」を行っても外反ストレスがかかりにくくなります

 そもそも肩を回して投げる場合,肘を突き出して投げることは難しくなるので,内側側副靱帯を損傷するリスクは小さくなると考えられます.

 なお,藤浪投手の右打者への死球問題については,この肩を回す(脊柱を軸にして両肩を結ぶ線を回転させるイメージ)投げ方が原因となっています.

 このことはYouTubeの動画で多くの人が指摘しています.コメントでは肩を回す投げ方を「横振り」と称しています.

 藤浪投手がこの投げ方を続ける限り,死球問題も続くことになります.しかし,この投げ方では外反ストレスがかかりにくいので,トミー・ジョン手術に至るリスクは小さくなると考えられます.

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