大谷選手の得点圏打率の低さに言及した記事がありますので,引用します.
初球打ちは悪いことか?
大谷は得点圏でサッパリでも…ロバーツ監督「積極的すぎる」と苦言のお門違い
大谷とロバーツ監督(C)共同通信社
(日刊ゲンダイDIGITAL)
「好機で積極的になりすぎている。もともと彼は攻撃的な打者だが、我々が手綱を締めないといけない」
ドジャースの大谷翔平(29)にロバーツ監督が苦言を呈したのは、日本時間17日のナショナルズ戦後だった。
3度の得点機にいずれも初球打ちで凡退。得点圏では20打席連続無安打で、同打率は.053に低下。さすがにロバーツ監督もクギを刺したくなったのだろう。
かつて大谷と同様に、指揮官に早打ちを修正するよう指摘された選手がいる。大谷が師と仰ぐイチローだ。
マリナーズ時代の2004年キャンプで、当時のメルビン監督は、初球は様子を見て、打者有利のカウントで勝負することを提案した。イチローは早打ち、悪球打ちで安打を量産した一方で、ボール球に手を出して凡退するケースも少なくなかった。イチローは指揮官の提案を受け入れたものの、持ち前の積極性が影を潜め、4月は打率.255と低迷。元のスタイルに戻した5月以降は安打を量産し、262安打を放ってメジャー史上最多安打記録を樹立した。
イチローは以降も、ボール球に手を出して不振に陥るたびに、チーム内外で「四球を選ぶべき」などと批判の的になった。
大谷もイチローのように、監督から苦言を呈されたわけだが、大谷の場合はそれが必ずしも的を射ているとは言い難い。
18日時点でメジャー最多の31安打をマーク。あくまで得点圏での打率が伸びないだけであって、高打率(.360)をキープしている。
現地特派員が言う。
「イチローはリードオフマンであり、安打を打って出塁することが求められた。ボール球に手を出して安打が出なければ、批判を浴びるのは当然です。でも大谷は、あくまで得点圏で安打が出るか出ないかの問題。しかも、幼少期から好球必打の考えが体に染みついており、メジャー通算175本塁打のうち、初球を仕留めたのは39本で最も多い。ロバーツ監督が言うように初球から打ちに行かずにボールを見極めようとすれば、かえって大谷の良さがそがれ、ますます袋小路に入り込む危険があります」
雑音を封じるためにも、得点圏で1本打ってスッキリしたいところだ。
引用元:https://news.goo.ne.jp/article/nikkangendai/sports/nikkangendai-1035695.html
結論からいうと,大谷選手が初球から積極的に打ちにいくことは正しいことで,批判されるべきものではありません.
積極的に打つことを続けることで,徐々に得点圏打率は上がっていくはずです.
ストライクをとられるごとに打率は下がる
2023年のMLBのカウント別打率と本塁打率を示したものが次の表になります.
MLB 2023 カウント別打率,本塁打率 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
カウント | 打数 | 打数割合% | 安打 | 打率 | 本塁打 | 本塁打率 |
0-0 | 19489 | 11.9 | 6782 | .348 | 1077 | 18.1 |
1-0 | 10782 | 6.6 | 3785 | .351 | 669 | 16.1 |
2-0 | 3914 | 2.4 | 1324 | .338 | 260 | 15.1 |
3-0 | 284 | 0.2 | 105 | .370 | 35 | 8.1 |
0-1 | 15785 | 9.6 | 5060 | .321 | 651 | 24.2 |
1-1 | 14078 | 8.6 | 4707 | .334 | 680 | 20.7 |
2-1 | 8078 | 4.9 | 2686 | .333 | 427 | 18.9 |
3-1 | 3365 | 2.0 | 1154 | .343 | 242 | 13.9 |
0-2 | 17398 | 10.6 | 2767 | .159 | 251 | 69.3 |
1-2 | 27708 | 16.9 | 4527 | .163 | 499 | 55.5 |
2-2 | 25986 | 15.8 | 4610 | .177 | 567 | 45.8 |
3-2 | 17484 | 10.6 | 3332 | .191 | 510 | 34.3 |
表に示したように,打者は初球から積極的に打つほうがよいのです.ノーストライク,1ストライクのカウントでは打率は3割を超えますが,2ストライクになると,打率は1割台になります.
本塁打率(本塁打を打つのに何打席を要するか)もノーストライクが最も低く,2ストライクでは一気に跳ね上がります.
打者はストライクをとられるごとに,どんどん不利な状況に追い込まれます.成績を残すためには追い込まれる前に打たなければなりません.
大谷選手のカウント別打率,本塁打率
2023年のMLBのカウント別打率と本塁打率は次のとおりです.
大谷翔平 2023 カウント別打率,本塁打率 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
カウント | 打数 | 打数割合% | 安打 | 打率 | 本塁打 | 本塁打率 |
0-0 | 68 | 13.7 | 34 | .500 | 10 | 6.8 |
1-0 | 43 | 8.7 | 20 | .465 | 6 | 7.2 |
2-0 | 10 | 2.0 | 6 | .600 | 1 | 10.0 |
3-0 | 1 | 0.2 | 1 | 1.000 | 0 | —– |
0-1 | 33 | 6.6 | 14 | .424 | 5 | 6.6 |
1-1 | 36 | 7.2 | 16 | .444 | 4 | 9.0 |
2-1 | 20 | 4.0 | 5 | .250 | 3 | 6.7 |
3-1 | 8 | 1.6 | 5 | .625 | 2 | 4.0 |
0-2 | 41 | 8.2 | 3 | .073 | 1 | 41.0 |
1-2 | 93 | 18.7 | 16 | .172 | 4 | 23.3 |
2-2 | 79 | 15.9 | 19 | .241 | 4 | 19.8 |
3-2 | 65 | 13.1 | 12 | .185 | 4 | 16.3 |
2ストライクに追い込まれると打てなくなるのは大谷選手も同じです.追い込まれる前のノーストライク,1ストライクでの打率,本塁打率はすばらしい数値となっています.
2ストライクではMLB平均程度の打率しか残せていません.本塁打率はMLB平均よりも低いのですが,ノーストライク,1ストライクと比較するとかなり高くなっています.
大谷選手とMLBとの比較
大谷選手とMLBのカウント別打率,本塁打率を比較したものが次の表になります.
2023 カウント別打率,本塁打率 大谷選手とMLBとの比較 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
打数割合% | 打率 | 本塁打率 | ||||
カウント | 大谷 | MLB | 大谷 | MLB | 大谷 | MLB |
0-0 | 13.7 | 11.9 | .500 | .348 | 6.8 | 18.1 |
1-0 | 8.7 | 6.6 | .465 | .351 | 7.2 | 16.1 |
2-0 | 2.0 | 2.4 | .600 | .338 | 10.0 | 15.1 |
3-0 | 0.2 | 0.2 | 1.000 | .370 | —– | 8.1 |
0-1 | 6.6 | 9.6 | .424 | .321 | 6.6 | 24.2 |
1-1 | 7.2 | 8.6 | .444 | .334 | 9.0 | 20.7 |
2-1 | 4.0 | 4.9 | .250 | .333 | 6.7 | 18.9 |
3-1 | 1.6 | 2.0 | .625 | .343 | 4.0 | 13.9 |
0-2 | 8.2 | 10.6 | .073 | .159 | 41.0 | 69.3 |
1-2 | 18.7 | 16.9 | .172 | .163 | 23.3 | 55.5 |
2-2 | 15.9 | 15.8 | .241 | .177 | 19.8 | 45.8 |
3-2 | 13.1 | 10.6 | .185 | .191 | 16.3 | 34.3 |
打者は追い込まれると打てなくなるため,ノーストライク,1ストライクの打数を増やし,2ストライクの打数を減らす必要がありますが,大谷選手は2ストライクの打席割合が55.9%でMLB53.9%を上回っています.
大谷選手はMLB移籍後から(おそらくNPB在籍時も)2ストライクの打席割合が大きいのが特徴で,早打ちせずボールを見る傾向があります.2ストライクの0-2以外のカウントでMLBよりも打数割合が大きくなっています.
元々早打ちしない大谷選手ですが,結果として2ストライクでは0-2,3-2のカウントで打率がMLB平均を下回っています.
データから2ストライク後に打つことは得策とはいえないため,初球から積極的に打っていくことは正しいとしかいえません.
テッド・ウィリアムズの強打者になる秘訣
最後の4割打者といわれるテッド・ウィリアムズ選手も,積極的に打ちにくことの重要性を指摘しています.
引退後にウィリアムズは、「特に第一ストライクを狙う事が強打者になる第一の秘訣。と言うのはストライクを逃せば、それだけ打者に不利なカウントになる。そうすると投手も思い切ってドンドン投げてくる。こんな簡単な事が分からない打者が今の野球には多過ぎるんじゃないかな。第一ストライクを打つ打者が沢山いるチームは必ず好成績をおさめる。また、それこそがプロ野球だ」と述べている(ただし、ウィリアムズ自身は四球が多い打者だった)。
引用元:ウィキペディア
引用文に「ただし、ウィリアムズ自身は四球が多い打者だった」とありますが,ウィリアムズ選手は第一ストライクを狙うといっているので,初球から何でも打つということではありません.
第一ストライクを狙うというのは,ファーストストライクを打つという意味です.ストライクが来るまでバットを振らないので,選球眼のよい打者は四球が多くなっても不思議ではありません.第1ストライクで打つ打者が四球が少ないとは限りません.
関連した記事を載せていますので,興味のある方は「初球の甘いボールを平気で見送る打者-スティーブン・クワン」をご覧ください.