2020年5月に作成した「内側側副靱帯を損傷する可能性が大きい投手」のリストから,2019年ドラフト会議で指名された投手について解説します.
2019年ドラフト会議で指名された投手
2019年ドラフト会議で指名された投手のうち,動画で投球動作を確認できた投手を対象にしています.投法は最も内側側副靱帯を損傷しやすいスリークウォーターに限定しています.
内側側副靱帯を損傷する可能性が大きい投手 2020年5月作成 投法:スリークウォーター 投球動作:タイプA-1 | |||||
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タイプ A-1 の投手 | 加速期で 肩が固定 される | 加速期で の肘の突 き出し | ボール の切り方 タイプ | 最高 球速 | 内側側 副靱帯 の損傷 |
伊勢大夢 | ○ | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
岡野祐一郎 | ○ | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | 引退 |
奥川恭伸 | ○ | △ | タイプ4 水平 | 2 | ○ 2022.10 |
浜屋将太 | ○ | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
吉田大喜 | ○ | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
※内側側副靭帯損傷歴の有無にかかわらず,TJS歴のない投手を対象とする. *は過去に内側側副靱帯損傷歴のある投手 ※最高球速 1:140kph~,2:150kph~,3:160kph~ ※タイプA-1:MER(肩関節最大外旋位)から体幹を倒さず,回旋せず腕を振る ※MER:Maximal shoulder external rotation 肩関節最大外旋位 ※TJS:トミー・ジョン手術(Tommy John Surgery) |
奥川恭伸投手の分析
動画を観ると,奥川投手はリリース後もあまり上体が前傾せず,肩を固定して投げていることがわかります.肘の突き出しがあった場合,肩が固定されるほど,外反ストレスは大きくなります.
奥川投手には肘の突き出しが明らかに見られます.MER(捕手正対時)とリリース時との上腕の角度が45°を超えているので,肘の突き出しは大きい方といえます.
- 投法はスリークウォーターである
- タイプ4(水平)の腕の振りである
- 球速が速い
奥川投手は肩を固定して肘の突き出しを行っており,上記の条件も満たしているため,内側側副靱帯を損傷する可能性が大きいといえます.
前腕が到達する位置
肘の突き出しを行うと押し出すように腕を振ることになるので,前腕の位置は背面側に到達します.
奥川投手のリリース後,前腕がどこまで達しているかを確認してください.タイプ4(水平)の腕の振りをする投手は,前腕がベルトあたりまで入ります.
トミー・ジョン手術を受ける投手の大半が,このタイプ4(水平)の投手です.
石川投手のリリース後,前腕がどこまで達しているかを確認してください.タイプ1(垂直)の腕の振りをおこなう投手は,前腕が体の前で止まります.タイプ1(垂直)の投手がトミー・ジョン手術を受けることは,まずありません.
奥川恭伸投手の報道について
佐々木朗希投手の記事まで書いて,公開したのが10月31日の0時39分.その4時間21分後に奥側恭伸投手のニュースが配信されました.
【ヤクルト】奥川恭伸が右ひじ手術を検討…トミージョンなら来季中の復帰絶望的か
10/31(月) 5:00配信ヤクルトの奥川恭伸投手(21)が今オフにも、右肘内側側副靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン手術)を検討していることが30日、分かった。
昨季、チームトップタイの9勝を挙げた奥川は、本拠・神宮の開幕戦となる3月29日の巨人戦で今季初登板。先発で最速149キロをマークしたが、4回1失点、53球で降板し、翌30日に出場選手登録を抹消されていた。
球団は「上半身のコンディション不良」と発表したが、実際は右肘の状態が思わしくなかったとみられる。以降、1軍昇格はなく、ファーム調整。ノースロー期間を経てキャッチボールを再開、一時はブルペン投球を行うまで回復傾向にあったが、実戦で投げるメドは立っていなかった。7月下旬には新型コロナに感染して療養するなど、コンディションを整えられなかった。
20年の新人合同自主トレでも軽い炎症を起こすなど、入団当初から右肘の状態には気を使ってきた。トミー・ジョン手術からの復帰には、一般的に1年~1年半の期間を要する。ここまでは回復を待って保存療法を続けてきたが、手術に踏み切れば、4年目を迎える来季中の復帰は絶望的となる。次期エース候補として期待を寄せる球団も、本人も、極めて慎重に話し合いを重ねてきており、最終的には本人の判断にゆだねられる見込みだ。
報知新聞社
引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/e3e1a4a2db6392c20f123aab251ad2e1aea79e15
帰宅して奥川投手のニュースを知ったのですが,このブログを読んだ方は奥川投手のニュースの後に,後出しで記事を載せたように思われているかもしれません.
奥川投手はMER(捕手正対時)からリリース,リリース後にかけて上体があまり前傾しません.
奥川投手のように肩を固定する投手は,肘を突き出したときに外反ストレスが大きくなるので,内側側副靱帯を損傷するリスクが大きくなります.
奥川投手は予測しやすい投手の部類に入りますが,投球動作は千差万別で一筋縄ではいかない場合もあります.
迷いに迷って内側側副靱帯の損傷はないと判断した投手がトミー・ジョン手術を受けたというケースもあります.今後,色々なケースについて,解説したいと思います.