2020年5月に作成した「内側側副靱帯を損傷する可能性が大きい投手」のリストから,スリークウォーターの投手について解説します.
スリークウォーターの投手
当時タイプ3(垂直<水平)の投手も含め50名でリストを作成していましたが,2023年シーズン終了時に引退している投手はリストから外しています.
内側側副靱帯を損傷する可能性が大きい投手 2020年5月作成 投法:スリークウォーター 投球動作:タイプA-1 | |||||
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タイプ A-1 の投手 | 加速期で 肩が固定 される | 加速期で の肘の突 き出し | ボールの 切り方 タイプ | 最高 球速 | 内側側 副靱帯 の損傷 |
成瀬善久 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
菅野智之* | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
野村祐輔 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
美馬学 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
辛島航 | 〇 | 〇 | タイプ4 水平 | 1 | |
大瀬良大地* | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
千賀滉大 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 3 | |
有原航平 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
石川歩 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
岩嵜翔 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | TJS 2022.9 |
佐藤由規 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 3 | |
九里亜蓮 | 〇 | 〇 | タイプ4 水平 | 2 | |
益田直也 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
三嶋一輝 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
松井裕樹 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
中崎翔太 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
加藤貴之 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
増田達至 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
原樹里 | 〇 | 〇 | タイプ4 水平 | 2 | |
小笠原慎之介 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
吉田一将 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
鍵谷陽平* | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
砂田毅樹 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
杉浦稔大* | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
上茶谷大河 | 〇 | 〇 | タイプ4 水平 | 2 | |
藤平尚真 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
松本祐樹 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
森原康平 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
佐々木千隼 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
東條大樹 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
小島和哉 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 1 | |
田村伊知郎 | 〇 | △ | タイプ3 垂直<水平 | 2 | |
東妻勇輔 | 〇 | △ | タイプ4 水平 | 2 | |
※内側側副靭帯損傷歴の有無にかかわらず,TJS歴のない投手を対象とする. *は過去に内側側副靱帯損傷歴のある投手 ※最高球速 1:140kph~,2:150kph~,3:160kph~ ※タイプA-1:MER(肩関節最大外旋位)から体幹を倒さず,回旋せず腕を振る ※MER:Maximal shoulder external rotation 肩関節最大外旋位 ※TJS:トミー・ジョン手術(Tommy John Surgery) ※岩嵜翔投手は2022.9にTJSを受けていますが,内側側副靱帯を損傷したのかは不明 |
千賀滉大投手の分析
千賀投手が内側側副靱帯を損傷する可能性について解説します.
動画からわかるように,千賀投手には肘の突き出しがみられます.
千賀投手は肩を固定した状態で肘を突き出しているため,内側側副靱帯に負荷がかかります.上体を倒さず,肩を回さない投手は,肩を固定しているとみなします.
逆にいえば,肘を突き出していても肩が動いていれば,内側側副靱帯は損傷しないことになります.
また,リリース時に肘の向きはそこまで下がっていないため,肘は前方に突き出されていると判断できます.肘を下向きに突き出す場合は,内側側副靱帯に負荷がかかりにくくなります.
千賀投手はリリース後,前腕がベルトの辺りまで到達しているので,腕の振りはタイプ4(水平)になります.
千賀投手のように腕が地面と平行になるくらいまで背面側に入るのは,肘が前方に突き出されていることを意味するので,外反ストレスが大きく作用していることになります.
球速も160kphを超えており,高い確率で内側側副靱帯を損傷する条件が整っているといえます.
成瀬善久投手の分析
ボールの握りを見ると,一投目はSFF(スプリットフィンガー・ファストボール)のようですが,SFFは4シームと同じ腕の振りとなるので,分析は可能です.
成瀬投手はMERからリリースにかけて肘の突き出しがみられます.突き出しの程度はそこまで大きくありません.また,リリース時は少し前傾していますが,リリース後は体が起きているので,肩を固定して投げていることがわかります.
ここまで成瀬投手が肩を固定して肘を突き出していることが確認できます.
- 投法はスリークウォーターで,外反ストレスがかかりやすい
- タイプ3(垂直<水平)の腕の振りである
- 球速が遅い
成瀬投手はNPBの通算投球回数が1567.2と多い方ですが,
- 肘の突き出しがそこまで大きくない
- タイプ3(垂直<水平)の腕の振りで,水平にボールを切る要素がタイプ4(水平)ほど大きくない
- 球速が遅い
といった理由から内側側副靱帯を損傷するまで至っていないという見方もできます.
リリース後,前腕がグラブ側の大腿部に達しているので,腕の振りはタイプ3(垂直<水平)に分類される
上体が立っているため,肩から下ろした垂線と上腕の角度(45°程度)で判断すると水平にボールを切る要素が大きいとはいえない
上茶谷大河投手の分析
上茶谷大河投手については,「上茶谷大河投手-内側側副靱帯を損傷する典型的な投球動作」ですでに解説済みですが,1点気になるところがあります.
それは,上茶谷大河投手のリリースの肘の位置が下がり気味になっているところです.
リリースの時点でこれだけ肘が下がるということは,肘を突き出す方向が下向きになっているということなので,前腕を後方に回転させる(肩関節を外旋させる)モーメントは小さくなると考えられます.
リリース後,前腕は腰のところまで到達しているのでタイプ4(水平)の腕の振りとなりますが,肘を突出す方向が下向きで外反ストレスがあまり大きくならないことを考慮すると,内側側副靱帯を損傷するかは微妙なところです.