2020年5月に作成した「内側側副靱帯を損傷する可能性が大きい投手」のリストから,オーバースローの投手について解説します.
オーバースローの投手
MER(肩関節最大外旋位)から体幹を倒さない投手をタイプA,倒す投手をタイプBに分類し,タイプAの中でMERから体幹を回旋しない投手をタイプA-1,回旋する投手をタイプA-2としています.
肩を固定した状態で肘を突き出すときに,内側側副靱帯は損傷します.逆にいえば肩が移動する投手は内側側副靱帯を損傷しません.
内側側副靱帯を損傷するのは,体幹を倒さず体幹を回旋しないタイプA-1の投手になります.
肩を固定したまま肘を突き出す
このリストを作成したのが2020年5月で,翌月の6月に西野勇士投手の内側側副靱帯損傷のニュースが流れました.
斎藤佑樹投手は半信半疑でリストに載せましたが,2020年10月に内側側副靱帯を損傷しています.
西野投手はMER(肩関節最大外旋位)からリリースまで上腕が倒されています.上腕が倒されているということは,肘の突き出しが行われているということです.
西野投手は上体を倒さずに投げるため,加速期で肩は固定されているとみなされます.肩を固定した状態で肘を突き出すと内側側副靱帯を損傷するリスクが大きくなります.
斎藤佑樹投手も西野投手と同じくMERからリリースにかけて上腕を倒して投げます.斎藤佑樹投手も上体を倒さずに投げるので,肘の突き出しが行われます.
半信半疑でリストに載せた斎藤佑樹投手
西野,斎藤両投手ともに肩を固定する投げ方で,肘の突き出しが見られるため,外反ストレスがかかりやすい投げ方になっていることが確認できます.
西野勇士,斎藤佑樹投手の分析
- 投法がオーバースローで,上腕が外側に傾く角度が小さいため,肘の突き出しが行われたとしても外反ストレスは大きく作用しない
- 斎藤投手は肘の突き出しがそこまで大きくない
- 腕の振りがタイプ3(垂直<水平)なので,タイプ4(水平)ほど外反ストレスは大きくならない
- 球速がものすごく速いわけではない
次に,投法,腕の振りのタイプ,球速,投球回数(間接的な指標)という指標を用いて,外反ストレスの大きさを推測します.
1のオーバースローではスリークウォーターのように上腕が外側に傾かないので,外反ストレスはかかりにくくなります.
しかし,オーバースローといっても,上腕が完全に地面に対して垂直になるわけではないので,腕の振りのタイプ,球速,投球回数(間接的な指標)という指標によっては,内側側副靱帯を損傷する可能性も否定できません.
3の腕の振りのタイプは,両投手ともタイプ3(垂直<水平)で,タイプ4(水平)ほど前腕を後方に回転させる(肩関節を外旋させる)モーメントは大きくなりません.
4の球速は両投手とも最速が150kph以上ですが,平均球速はそれほど速いとはいえません.
以上の理由から西野勇士,斎藤佑樹投手は,可能性はあっても実際に内側側副靱帯を損傷することはないであろうというのが当時の見解でした.しかし,両投手とも内側側副靱帯を損傷しています.
山崎康晃投手の分析
山崎康晃投手も,西野,斎藤両投手とMER(肩関節最大外旋位)からリリースにかけて肘の突き出しを行っています.
山崎投手はリリースポイントがかなり前になっていますが,肘の突き出しを行うと,当然リリースポイントは前になります.
山崎康晃投手には肘の突き出しがみられますが,肩関節最大外旋角度が小さいことやオーバースローの上腕が垂直に近く外側に傾く角度が小さいことを考慮すると、外反ストレスはあまり大きくならないと考えられます.
投球回数は間接的な指標ですが、リリーフは先発に比べ投球回数も少ないこともあり,内側側副靱帯損傷まで至らない可能性も否定できません.
山崎康晃投手の外反ストレスがあまり大きくならない理由
- 肩関節最大外旋角度が小さい
- オーバースローで上腕が垂直に近い
- 投球回数が少ない
山崎康晃投手は肘の突き出しを行っていますが,上記の理由により内側側副靱帯を損傷しない可能性があります.