投手の腕の振りは4つのタイプに分類される⑤-まとめ

 投げ終わった後,手がどの位置まで到達するかを見ると,体の手前で止まる投手もいれば,背面側に大きく入る投手もいます.つまり,リリース後の手の到達位置によって,腕の振りを分類することが可能です.

 リリース後の手の到達位置による分類と同様に,肩から下ろした垂線とリリース後の上腕との角度からも分類することができます. 

目次

リリース後の上腕の角度による腕の振りの分類

リリース後の上腕と肩から下ろした垂線との角度による腕の振りの分類
ボールの切り方とリリース後の上腕と肩から下ろした垂線との角度との関係
リリース後の上腕と肩から下ろした垂線との角度腕の振りのタイプボールの切り方
~0°タイプ1
垂直
垂直にボールを切る
0°~45°タイプ2
垂直=水平
垂直にボールを切る要素と水平にボールを切る要素が混在
45°~90°タイプ3
垂直<水平
水平にボールを切る要素
が大きい
90°~タイプ4
水平
水平にボールを切る

 投手の腕の振りはリリース後の上腕の角度により,4つのタイプに分類することができます.

  • 肩から下ろした垂線と上腕との角度が ~0°となり,腕が体の前で止まる場合は,垂直にボールを切る腕の振り
  • 肩から下ろした垂線と上腕との角度が 0°~45°の場合は,垂直=水平(中間型)でボールを切る腕の振り
  • 肩から下ろした垂線と上腕との角度が 45°~90°の場合は,水平にボールを切る要素が大きい垂直<水平の腕の振り
  • 肩から下ろした垂線と上腕との角度が 90°~の場合は,水平にボールを切る腕の振り

 リリース後,腕が止まる位置は,運動連鎖の末端の振子(手)の速度を最大にする際に,どこで手根部にブレーキをかけるかによって決まります.

リリース後,前腕が到達する位置による腕の振りの分類

ボールの切り方とリリース後に前腕が達する位置との関係
ボールの
切り方
タイプ1
垂直
タイプ2
垂直=水平
タイプ3
垂直<水平
タイプ4
水平
タイプ4
水平
——————体幹・腰
グラブ側
タイプ3
垂直<水平
————大腿
グラブ側
——
タイプ2
垂直=水平
——下腿
グラブ側
————
タイプ1
垂直
体の手前——————
前腕が到達する位置は,高低でみるとタイプ1が最も低く,タイプ4に移行するにつれて高くなる
前後でみるとタイプ1が体の手前で,タイプ4に移行するにつれて背面側に移動する

 投手の腕の振りは,リリース後,前腕がどの位置に達するかによって4つのタイプに分類することができます

 垂直にボールを切るタイプ1の腕の振りでは,「指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを切る」,「手関節に括り付けた紐を下方に引き下ろすような気持ちで,前腕部を肘からスイングする」といった腕の振りとなるため,リリースポイントは低い位置になります

引用元:科学する野球・ドリル篇,p.51,図⑤,⑥
垂直にボールを切るタイプ1の腕の振りでは,「指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを切る」,「手関節に括り付けた紐を下方に引き下ろすような気持ちで,前腕部を肘からスイングする」といった腕の振りとなる

 前腕が達する位置を高低でみると,腕を押し出すようにスピンをかける水平にボールを切るタイプ4の腕の振りでは,腕の振り幅が大きいため前腕が達する位置も高くなります.

 垂直にボールを切るタイプ1の腕の振りに移行するにつれて,腕の振り幅は小さくなるため,前腕が達する位置は低くなっていきます

 前腕が達する位置を前後でみると,垂直にボールを切るタイプ1の腕の振りではリリースポイントが体に近くなるため,前腕が達する位置は体の手前(捕手側)になります.

 水平にボールを切るタイプ4の腕の振りに移行するにつれて,リリースポイントが体の方に入っていくため前腕が達する位置は後方(背面側)にズレていくことになります.

ボールの切り方によって腕の振りと球質,球速が変わってくる

ボールの切り方と球質,球速,トミー・ジョン手術に至るリスクとの関係
ボールの切り方タイプ1
垂直
タイプ2
垂直=水平
タイプ3
垂直<水平
タイプ4
水平
ボールの回転数多い→→→→→→少ない
リリース
ポイント
体に近い→→→→→→体から離れる
腕の振り幅小さい→→→→→→大きい
球速小さい→→→→→→大きい
該当する投手稲生和久
石川雅規
M・シャーザー
涌井秀章
A・チャップマン
菅野智之
J・デグロム
大谷翔平
トミー・ジョン手術に至る
リスク
小さい→→→→→→大きい
※垂直にボールを切るタイプ1が最も強いスピンをかけられるという前提の下に作成.
※タイプ1で必ず球速が出ない,タイプ4で必ず回転数が少なくなるということではありません.

 タイプ1ではボールを真上から真下に切るため,ボールに強いスピンがかかりますが,リリースポイントが手前になり腕の振り幅が小さくなるため,球速は出にくいと考えられます.

 タイプ4では腕を押し出すように水平にボールを切るため,ボールに強いスピンをかけにくくなりますが,リリースポイントが体から離れて前方になり腕の振り幅が小大きくなるため,球速は出やすくなると考えられます.

 タイプ4に移行するにつれて,肘の突き出しが行われるため,トミー・ジョン手術を受ける(内側側副靱帯を損傷する)リスクが大きくなります

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