目次
タイプ4-水平にボールを切る
投手の腕の振りは,リリース後,前腕が到達する位置によって4つのタイプに分類されます.
- 垂直 垂直にボールを切る
- 垂直=水平(中間型) 垂直にボールを切る要素と水平にボールを切る要素が半々
- 垂直<水平 水平にボールを切る要素が垂直にボールを切る要素よりも大きい
- 水平 水平にボールを切る
2と3は,垂直の腕の振りと水平の腕の振りが混合しているタイプです.
この分類は,肘関節内側側副靱帯損傷に至る原因を説明するのにとても役立ちます.
タイプ4(水平)の投手は水平にボールを切ります.押し出すようにボールを切るため,リリース後,前腕が背面側に入ります.
ボールを押し出すように切るためスピンがかかりにくくなりますが,腕の振り幅が大きくなるため,球速は出ます.ボールのキレよりも球速で勝負するタイプの投手といえます.
このタイプ4ではトミー・ジョン手術を受けるリスクが最大になります.タイプ4に該当する千賀滉大投手は内側側副靱帯を損傷することがほぼ確実といえます.
レイ・ブラック
ソニー・グレイ
大谷翔平 2018 2023 TJS
ジェイコブ・デグロム 2010 2023 TJS
前田健太 2021 TJS
千賀滉大
千賀投手はリリース後,地面と平行になるくらいまで腕が背面側に入っています.前腕がここまで到達しているということは,肘の突き出しが行われていると考えて差し支えありません.
球速も考慮すると,内側側副靱帯を損傷するのは,ほぼ確実と考えられます.
水平にボールを切る投手は球速で勝負できるが,トミー・ジョン手術に至るリスクが大きい
大谷翔平選手のように,リリース後,前腕が体幹,腰のグラブ側に入る投手も多くみられます.
この投げ方は「投手の腕の振りは4つのタイプに分類される①-垂直」で述べた「垂直にボールを切る腕の振り」とは真逆の「水平にボールを切る腕の振り」になります.
水平にボールを切るとは,前方に腕を押し出すようにボールを切る投げ方で,ボールを指先に乗せる時間を長くして,腕が前方に伸びるときに指先で押し出すようにボールに回転をかけます.
水平にボールを切る腕の振り
- リリース後,腕が体の背面側に入る.
- ①肩から下ろした垂線と上腕との角度が90°以上になる,②上腕が体にあたって止まる場合は,肩から下ろした垂線と前腕との角度が90°以上になる.
- 投手のステップ幅や,リリース後,上体を倒すかどうかによって,腕が入る位置が変わってくる.上体を倒すと肩から下ろした垂線と上腕との角度が90°以上になりやすいが,上体を倒さない投手では,上腕が体に当たって止められるため,上腕の運動エネルギーが前腕に伝達され前腕が体幹,腰のグラブ側に入りやすくなる.
- 腕を押し出すようにボールを水平に切る.
- ボールを水平に切るとは,正確には「ボールを切る直前の手関節の付け根の位置を含む水平な平面(水平面と平行)に沿って,腕を振る方向にボールを切る」(以後,水平に・水平な平面でボールを切る)という表現に近くなる.
- ボールを水平に切るとは感覚的な表現であり,実際に水平な平面でボールを切るということではない.
- 垂直にボールを切らないため,スピンがかかりにくくなると考えられる.
- リリースポイントが体から離れ,前方になる.
- リリースポイントが体から離れると,腕の振り幅が大きくなるため,球速が出やすいと考えられる.
- 水平にボールを切る要素が大きくなると,肘の突き出しが行われるため,内側側副靱帯を損傷しやすくなる.