タイプ1-垂直にボールを切る
投手の腕の振りは,リリース後,前腕が到達する位置によって4つのタイプに分類されます.
- 垂直 垂直にボールを切る
- 垂直=水平(中間型) 垂直にボールを切る要素と水平にボールを切る要素が半々
- 垂直<水平 水平にボールを切る要素が垂直にボールを切る要素よりも大きい
- 水平 水平にボールを切る
2と3は,垂直の腕の振りと水平の腕の振りが混合しているタイプです.
この分類は,肘関節内側側副靱帯損傷に至る原因を説明するのにとても役立ちます.
タイプ1(垂直)の投手は垂直にボールを切ります.指が垂直な壁をさするような感じでボールを切るため,リリース後,体の手前で腕が止まります.
振り幅が小さくなるので球速は出ませんが,回転数が高く,球速よりもボールのキレで勝負するタイプの投手といえます.
タイプ1(垂直)の投手は肘の突出しが行われることがまずないため,内側側副靱帯を損傷する可能性は小さくなります.
工藤公康
稲尾和久
石川雅規
ポール・シーウォルド
サイドスローに近いスリークォーターの投手はボールを垂直に切ることが難しくなると考えられますが,動画を観るとシーウォルド投手がボールを垂直に切っていることが確認できます.
シーウォルド投手は,6/21現在,4シームの平均回転数が2498(RPM)で40位/576投手,平均球速が91.2(MPH)で517位/576投手となっています.
垂直にボールを切る投手はボールに回転をかけやすくなりますが,肘を突き出してボールを押し出すように投げないため,腕の振り幅が小さくなり球速は出ません.
シーウォルド投手は回転数が多く,球速が遅い典型的なタイプ1(垂直)の投手といえます.
垂直にボールを切る投手はスピードよりもボールのキレで勝負する
稲尾,工藤,石川投手,シーウォルド投手ともに,リリース後,腕が体の前で止まっています.腕が体の前で止まるということは,腕を真上から真下に振り下ろして,垂直にボールを切っていると考えられます.
リリースのときにボールにバックスピンをかけなければなりませんが,図90のように手根部から投げようとして手を掌屈(手の平の方に曲げる)すると,トップスピンがかかりボールがお辞儀します.
バックスピンのかけ方については,「科学する野球・実践篇」のなかに感覚的な表現が使われています.p.128の「指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを切る」とp.134の「手関節に括り付けた紐を下方に引き下ろすような気持ちで,前腕部を肘からスイングする」という表現です.
バックスピンをかける動作は一瞬におこなわれるので,具体的な動作を提示するよりも感覚的なものがより効果的ではないかと思われます.たとえ感覚的なものであってもその感覚をもって練習することで,実際にバックスピンがかけられるようになれば,優れた練習方法であるといえます.
稲尾,工藤,石川投手のように,リリース後,腕が体の前で止まる投手は,「科学する野球」で述べられている「指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを切る」というバックスピンのかけ方を実践していると考えられます.
三投手ともに垂直にボールを切り,スピンのかかったキレのあるボールを投げるイメージがあります.
垂直にボールを切る腕の振り
- リリース後,腕が体の前で止まる.
- 指が垂直な壁をさするような感じで,ボールを真上から真下に切る.
- ボールを真上から真下に切るとは,正確には「ボールを切る直前の手関節の付け根の位置を含む垂直な平面(冠状面と平行)に沿って,腕を振る方向にボールを切る」(以後,垂直にボールを切る,垂直な平面でボールを切る)という表現に近くなる.
- ボールを垂直に切るとは感覚的な表現であり,実際に垂直な平面でボールを切るということではない.
- スピンのかかったキレのあるボールになると考えられる.
- リリースポイントが体に近くなる.
- リリースポイントが体に近くなると,腕の振り幅が小さくなるため,球速は出にくいと考えられる.