投手の投げるボールは上から下へ落ちてくる
上図は,ダルビッシュ投手の4シームの軌道です(8/11対ダイヤモンドバックス戦,一塁側から).
投手のリリースポイントと捕球する捕手のミットの位置を考えれば,当然,ボールの軌道は上から下へ落ちてくることになります.高めのコースよりも低めのコースのほうが,角度が大きくなります.
アップスイングとアッパースイングの違い
下図は投球の軌道とスイングの軌道の関係を示したものです.
- アップスイング:投球の軌道とスイングの軌道が一致する.中心衝突(側面から)
- レベルスイング:投球の軌道とスイングの軌道が交差する.偏心衝突(側面から)
- ダウンスイング:投球の軌道とスイングの軌道が交差する.偏心衝突(側面から)
- アッパースイング(筆者が追加):投球の軌道とスイングの軌道が交差する.偏心衝突(側面から)
上図のSlightly up swing(少し上向きのスイング) では,球道とスイングの軌道が一致するので,「科学する野球」でいうところの中心衝突の条件の1つである「仮想の加撃面に沿ってレベルに打つ」を実現することができます.
このスイングの軌道がテッド・ウイリアムズ選手のアップスイング(アッパースイングではない)です.
「仮想の加撃面に沿ってレベルに打つ」については,『「科学する野球」バットとボール(球道)とは90°で衝突させる③-ボールが来た方向に打ち返す』で解説しています.
Level swingでは,スイングの軌道が球道と下向きに交差し,中心衝突は求められません.
Downward swingでは,Level swing よりもさらにスイングの軌道が球道と下向きに交差します.これがダウンスイングです.
Upward swing では,Slightly up swing(少し上向きのスイング)よりもさらに上向きのスイングとなり,中心衝突は求められません.これが悪い意味でよく使われるアッパースイングです.
「科学する野球」のトンカチの加撃理論では,トンカチ(バット)でクギ(球道)を打ち込む(中心衝突させる)ために,トンカチのスイングの軌道をクギ(球道)に合わせなければなりません.
Upward swing(アッパースイング)では,トンカチのスイングの軌道がクギが表す水平の球道と上向きに交差するため,偏心衝突を起こし,クギが曲がってしまいます.
同様に,Downward swing(ダウンスイング)では,トンカチのスイングの軌道がクギが表す水平の球道と下向きに交差するため,偏心衝突を起こし,クギが曲がってしまいます.
テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング
『「科学する野球」バットとボール(球道)とは90°で衝突させる②-偏心衝突』で述べたように,テッド・ウイリアムズ選手は,アップスイングを行っていました.
その根拠となるのは,投球されたボールは約五度下向きで打者に向かって飛来するから,これを打つには,少しアップスイングにしたほうが,投球の軌道とバットの軌道が一致している区域が長くなるという考え方です.
テッド・ウイリアムズ選手のアップスイング(The Williams stroke)では,スイングの軌道と球道が一致するため,インパクトゾーンが大きくなり(Large impact zone),ボールに力を伝えることが可能です.
レベルスイング(The level stroke)では,スイングの軌道が球道と上向きに交差するため,インパクトゾーンが小さくなり(Small impact zone),ボールに力を伝えることができません.