初球の甘いボールを見送ることは実に馬鹿げたこと
打者の中には,初球はまずボールを見ると決めている選手がいます.自分の意思ではなく,監督,コーチから初球はバットを振らず,球筋を見るように指示され,それが習慣になっている選手もいるかもしれません.
初球の甘いボールを見逃すことは,実に馬鹿げたことです.2022年のMLB全打者のカウント別打率を調べると,カウント0-0では.336ですが,カウント0-1では.319まで落ちます.
すべてのボールをカウント0-1で打つわけではなく,2ストライクになると,さらに打率は下がります.初球の甘いボールを見送るのは,打者を不利に追い込むだけです.
クワン選手は初球のど真ん中のボールを45球見送っている
2022年のシーズンで初球のど真ん中のボールを見送った回数が最も多い選手は,クリーブランド・ガーディアンズのスティーブン・クワン選手です.45球見送っています.
スティーブン・クワン選手の初球で真ん中に投げられたボールは57球です.57球の内訳は,見送ったボールが45球,ファウルが2球,空振りなし,ヒットが4球,アウトが6球となっています.10打数4安打なので,初球の真ん中のボールの打率は0.400です.
クワン選手は,初球のど真ん中に来たボールのうち,78.9%に当たる45球を見送っています.ヒットを打ちやすいボールを見逃して,わざわざ打率が下がるカウントに自分を追い込んでいます.
ストライクをとられるごとに打率は下がる
表からわかるように,ノーストライクのカウントが最も打率が高く,1ストライクをとられると,少し打率が下がり,2ストライクのカウントでは打率は1割台になります.つまり,2ストライクに追い込まれる前に打つことが重要になるので,初球の甘いボールを見逃す余裕などないはずです.
2022年のスティーブン・クワン選手とMLBを比較すると,クワン選手の特徴が見えてきます.
カウント別の打率,本塁打 スティーブン・クワンとMLBとの比較 2022 | ||||
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打率 | 本塁打 | |||
カウント | スティーブン ・クワン | MLB | スティーブン ・クワン | MLB |
0-0 | .333 | .336 | 2 | 1.37 |
0-0 真ん中 | .400 | .376 | 1 | 0.40 |
1-0 | .350 | .336 | 0 | 0.84 |
2-0 | .417 | .341 | 0 | 0.38 |
3-0 | .000 | .401 | 0 | 0.06 |
0-1 | .380 | .319 | 0 | 0.81 |
1-1 | .346 | .318 | 1 | 0.83 |
2-1 | .220 | .337 | 0 | 0.59 |
3-1 | .455 | .331 | 0 | 0.33 |
0-2 | .278 | .153 | 0 | 0.31 |
1-2 | .240 | .161 | 1 | 0.66 |
2-2 | .261 | .170 | 0 | 0.80 |
3-2 | .268 | .194 | 2 | 0.72 |
カウント3-0でバットを振らないことに決めているクワン選手
カウント3-0でのMLBの打率の平均は.401となっています.本塁打が0.06と非常に少ないことから,カウント3-0ではフォアボールになる確率が高いことがわかります.
クワン選手のカウント3-0での打率は.000です.内訳を見るとバットを振っていないことがわかります.
カウント3-0で投げられた23球の内訳は,ストライクが12球,ボールが11球で,空振りとファウルはありません.つまり,クワン選手はバットを振っていないということです.
ストライク12球のうち真ん中のボールが5球あるにもかかわらず,見逃しています.カウント別打率は1ストライクよりもノーストライクのほうが高いにもかかわらず,自らわざわざ1ストライクのカウントにしています.
カウント3-0では甘いボールが来てもバットを振らないと決めているクワン選手ですが,甘いボールを打たないことで,ヒットを打てるチャンスを自ら逃しています.
カウント3-0でバットを振らない理由
クワン選手がカウント3-0でバットを振らない理由は,フォアボールになる確率が高いからです.
カウント3-0でフォアボールになる割合 MLB 2022 | |||
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カウント | 打席 a | 四球の打席 b | 打席に占める四球 の打席の割合 % b/a |
3-0 | 2728 | 2363 | 86.6 |
ノースリーのカウントになる投手,言い換えると三球続けてボールを投げている投手は,もはやストライクが入らない状態になっているため,86.6%の確率で四球になっているということです.
もちろん甘いボールが来れば打者は打ちに行くので,はっきりボールとわかる投球になっていることがわかります.だからといって甘いボールを見逃す理由にはなりません.
「カウント3-0ではどうせ四球になるからど真ん中でも敢えてバットを振らない.自分は3-1,3-2でも打てる技術があるから見逃しても構わない」というのが,クワン選手の哲学のようです.
2ストライクでの打率が高いクワン選手
2ストライクカウントでのMLBの平均打率は1割台です.これは2ストライクに追い込まれると,投手が有利となり,打者が打てなくなることを示しています.
しかし,クワン選手は2割台の打率を維持しています.2ストライクに追い込まれてもヒットを打てる技術を持っています.
クワン選手は2022年に打率.298(アメリカン・リーグ9位),安打数168(アメリカン・リーグ9位)の成績を残しています.カウント3-0での対応を改善し,初球から積極的に打っていくようにすれば,更なる活躍が期待できます.